ラン×グラフ

ランニングしながらグラフを更新するブログ

「スティーブ&ボニー」を読んで

以前、 「海を撃つ」を読んで に例外的にランニングスポーツ以外のことについて書きました。

この時に書いたように個人的にはマラソンと関係ない話題ではなく、私がランニングスポーツをはじめるきっかけとなり、今でもモチベーションの1つになっているのが、この関連でできた仲間なのですが、私以外の人にとっては全く関係ない話題でした。

この書籍の著者である安東量子さんが2冊目の書籍を出しました。

「スティーブ&ボニー」副題が「砂漠のゲンシリョクムラ・イン・アメリカ」晶文社からの出版です。

前著は震災、東京電力福島第一原発事故から8年目、本著は11年目になりますが、本著は前著のつづきを描いたものではありませんでした。

 

著者、安東量子さんは原発事故によりいわき市内の一部の住民が一時的に避難を強いられたのをきっかけに始めたた地元での地道な生活回復のための活動、利害関係者によるダイアログ(対話の場)の開催のサポート(後に主催)のほかに、頼まれてその活動に関連して論文を書いたり、海外を含めた学会、シンポジウム的な場で報告を行うようなこともしてきました。

著者は研究者ではないので論文執筆や発表が実績になるわけではありませんから個人的には何も利益はありません。おそらく原発事故がなければ目立たず静かに暮らしていきたい性格なので承認欲求を満たすメリットもないように思います。

頼まれたから、お人よしだから、そしておそらくそれが将来の社会にとって役に立つことがあればと考えて、その都度、安請け合いし、大変な目に遭いながらこなしてきたようです。

 

そのような安請け合い案件の1つとして、アメリカの(本場)ゲンシリョクムラ開催の会議で発表することになります。著者自身と経験も考えも大きく異なること人たちのところへ行って、得意とも言えない英語で発表し議論するというハードワークを描いたのが本書です。

 

「本場」というのは、今回の開催地は原爆の開発拠点の1つであり、いまだにその当時の原発を廃炉中であり、それに関わってきた原子力技術者達の会合だからです。(原子力技術者だけでなく放射線防護にかかわる分野の海外からの専門家の参加もあります)

広島県出身で(自身は被爆二世、三世ではないものの)、広島県民に対する差別などを実体験として知る著者にとっては、対極的な立場にある人たちの拠点です。社会と放射線防護にかかわる認識も大きく異なる、理解しあうことが難しいであろう人々です。

 

本書では、発表するに行ったいきさつから、現地に行き、人々と関わり、歴史を知り、いろいろな思いをかかえながら...冷房が効きすぎな問題から、放射線リスクや人々の生活への考え方に至るまで...安請け合いしたシゴトをこなす様子までを、文学好きな筆者の筆が存分に生かされ読み物として面白いものに仕上がっていました。

 

小説風に再構成されたノンフィクションと同じような構成で、場面場面の状況に立ち会っているかのような感覚を持ちながら読み進めることができました。

(あとがきに書かれているように)意図して面白い物語として読み進められるように書かれたその中に、歴史的な事実や原発事故にかかわる事実や著者の考えが展開される部分がありました。

 

原発事故から13年経とうとする2023年の現在、多くの地域、多くの人の放射線リスクにかかわる問題、原発問題への関心は大きく低下しています。2020年からの新型コロナ(COVID-19)のパンデミックにより生活や社会の困難が発生して以来、それは加速しているように感じてます。

そして私自身もその例外ではないことを自覚しています。(平均より多少、情報をチェックしているかな、という程度)

 

こういう状況ではおそらく、原発問題、放射線問題について正面から取り上げた書籍を書いても関心を持つ人は少ないのではないかと思われます。そうであっても面白く読めるよう物語として構成され、実際に楽しく読めました。

 

著者、安東さんにはおそらくそういう深謀遠慮はなくて、面白い経験をしたから書き残しておこうと思ったものが編集者の目にとまって出版へという流れなのだろうとは思いますが、表現の仕方が的確なのは現実主義者である安東さんの本能なのかもしれません。

 

友人の著書であり、その活動等についておりにふれて目に触れることも多かったので、ひいき目はあります。客観的な書評は書けません。また是非本書を読んで知ってほしい面白い部分、大切な部分を私の稚拙な文章で紹介してネタバレしたくないので、「書きぶり面白い!」と思った件について書いてみました。